研究会発足

[深い感性のテクノロジー研究会発足]

これまで、感性、コンテンツ、CG 関係のシンポジウム等が多く開催され、幾つかの新しい学会も創設されたが、「何故、人は感動するのか、感動とは何か」といった本質的な問いかけが為されることはほとんど無かった。これらの研究者は、その問題は、芸術や、美学、哲学といった、いわゆる日本的な意味での「文科系」の問題であり、「工学系」の自分達の問題ではないと思っているのではないか。 一方、「文科系」の人達からは、新しいものは出てこないようだ。

そこで我々は、今一度、芸術の基である「感動」や心に湧き上がる、「深い感性」を観察(科学)し、それらが要求する本物の新しい工学を作り出す。「人々に深い感動をもたらすものは何か」等、科学的な面から本質を洞察し、人々を感動させるモノづくりを見据えた議論をし、実現例を作る。

1、研究の背景、状況

本研究会は、日本学術振興会未来開拓学術研究推進事業の理工領域:未来映像音響創作と双方向臨場感通信を目的とした高品位Audio-Visual Systemの研究:JSPS-RFTE97P00601(1997-2002)後の発展研究です。

日本は、1980年代、“道路を開発すれば産業が育つ”の主旨で、財投を、建設国債につぎ込んで、2回も日本列島改造をした。残った17兆円を3回目も建設国債投資をしても、お金が田んぼに沁み込むだけで無駄にならないかの危惧があり、バブルの最後の頃、将来、日本が食べて行くための、科学技術研究開発に使おうと、議員立法で科学技術基本法ができました。

未来開拓研究プロジェクトがそれで、約300のテーマがあり、上記JSPS-RFTE97P00601はその一つの工藝融合プロジェクトです。東京藝大でのプロジェクト成果発表会では大きな評価を受け、NHKTVニュースでも紹介されました。西澤潤一先生、相磯秀夫先生はじめ、評価委員からお褒めを頂きました。 その発展として、世界に誇る日本人情緒の、新文化創成を目指して、“深い感性のテクノロジー”を、北陸先端大、東京藝大、中央大学研究開発機構、ITE学会、感性工学会、で始め、続けてきました。

研究は、第六感も含めての全ての感覚が対象ですが、Audio-visualからです。

映像は、ディスプレイを自作できない(深い表現ができる ディスプレイがない)、“待ち状態”です。 音から、“深み”の方向を研究します。 従来オーディオは、いわゆる綺麗な音なら容易に出せるようになり、また、“スゲー、デケー”の音の広がりのサラウンド方向にも行き着いています。そのような市販のプレーヤー、アンプ、エンクロージャー、スピーカーなどは、使えないので、自から、ユニット改造からします。

2、研究の進め方は正攻法

心理物理学(物理要因・特性と心理との関係:Psychophysics)です。

従来研究でよく見られた、思いつきで、音と関係ありそうな電気特性を持ちだしてきて、それを測り、その特性を良くする改造をして、「ほら、こんなに特性が良くなった」と言う、場当たり的方法は多くありましたが、葦のズイから天井除く、で成功しませんでした。

真正面から、
(1)人が「音が良くて感動する」を、どうとらえるか調べ、次に
(2)感動するために不可欠な“要因・特性”を発見する。そして
(3)それを実現した装置を作る。最後に
(4)その音を評価する。その音が、おかしければ(1)、(2)に戻る
以上を繰り返します。

音によって感動することを定量的に測定する測定器はまだありませんので、本研究では測定器に“人”を使います。

人の感動は形容詞で表現されると考え、日本語の全形容詞約1300を、KJ法、多変量解析して、主成分を得、解析しました。本件で学位論文博士を出しています:(石川 智治, 冬木 真吾, 宮原 誠: "音質評価語の多次元空間におけるグルーピングと総合音質に重要な評価語", 電子情報通信学会論文誌A, vol.J80-A, no.11, pp.1805-1811 (1997-11).(音質の客観的評価の実証的理論)、石川 智治, 宮原 誠,  “深い感性情報”伝達の客観的評価に重要な体感評価語について”, 藝術科学会誌DIVA6号, 2004.4.(藝術科学会への公表)。最終的に、人の官能評価(人の好き嫌いを測る主観評価ではない客観的な評価)の、”胸に沁む”、”漂う空気感”、”実在感“という3つの代表評価語を見出しました。

これらがわかる人をいわば測定器に使い、実際の装置を作り、理論の実証を行うところまで成功しました。 音の良さを評価語で行うことから、この研究を“感性音響”と名付けました。長い研究となりましたので、この研究成果は 別のURLにあります。

感性音響 → http://niz237gt.sakura.ne.jp/new_analog

3,観察、FOCUS:

具体的な問題に焦点をしぼります。「woofer, squawker, tweeter の相対的な1mm以内の前後位置の誤差で、再現が最も難しい “怖さ”の表現ができなくなってしまうということ」を、驚きを持って報告している人がいます。そんな僅かな「ユニットの相互前後位置関係」が音質に影響するという事実に私は注目します;精細波面が重要であろうと思います。また以下の事実があります。

・現在オーディシステムの測定器では測定できないほどの僅かな量ではあるが特殊な歪が、我々の求める音質を満足させない劣化の原因になっているようだ。
・良くできたLPがCDより深いく感性に訴えるものがあることを確認している。これは過去のノスタルジアとか、思いこみではない。
研究会では、これらの問題が明確に確認できる実験ディスカッションを行います。CDの音をLPに回復できないか、も。

洞察
この研究は更に大きく、「人が怖さや、ぞくっとする深い感覚につながる心理生理学的な本質は何か」の発見・実証に繋がるとにらんでいます。すなわち、本研究会を入り口として、更に深い、「深い感性のテクノロジー」への発展を期しています。

・ 感性音響 と名付けて、心理物理:客観評価語と物理要因・特性、との関係の研究の中で、明らかになってきたのは、「人間が音を聴くのは、鼓膜で振動を聴くだけ」としてきた間違いでした。振動だけでなく波面を受信し、かつ身体でも受信(感じ)します。動物が本能的に危険を感じる重要な情報とほぼ同じと考えています。赤ちゃんは足裏で空気の気配を感じている。

それは、時間:波面と行きつきました。この、「鼓膜以外から人の肌を通して、内面(内蔵)に伝わる波面は、指揮者の小澤征爾さんが「音楽には子音が大切」と、言っておられるのも近いと思います。
 見落されてきたのは、 “時間変化”だ。しかも驚くほど微細な、ではないか? 深い感性のテクノロジー研究の2022~では、これにFOCUSして行います。

➡深い感性のテクノロジー研究会(2022~) → https://niz237gt.sakura.ne.jp/hmlab/