新・電気音響論の解説

新・電気音響論

 オーディオは、線型システム理論の中心となる、無歪伝送の条件から、そこで定義される歪を極小にすれば音が良いはず≒“忠実”としたのですが、この歪量と音質は必ずしも関係はなく、「特性は良いけど音は悪い」とも言われる状況で、結局「音の好みは人によって違い、様々」となってしまっています。
「新・電気音響論の“忠実”は、凄い演奏が伝えるものを、正しく再現する」 ことです。
真正面から、
(1)人が「音が良くて深く感動する」を、どうとらえるか調べた。次に、
(2)感動するために不可欠な“要因・特性”を発見する。そして、
(3)それを実現した装置を作る。最後に、
(4)その音を評価する。その音が、おかしければ(1)、(2)に戻る。それを繰り返して、実際的理論を作りました。以下に説明します。

    新しい、音知覚モデル(仮説)
    周波数理論、音の大きさ、ハードウェアとしての耳(鼓膜)の特性のみとしている、
    従来聴覚理論では欠落している、体感情報も含んだ音知覚モデルである。
    すなわち、
    音感覚は、
     a, 鼓膜から得られる情報(1/3位)、(従来聴覚理論はこれのみの対応である)と、
     b, 皮膚感覚(圧力感覚情報) と内臓を含む身体の振動(2/3位)
    の全体から脳が受け取る。 
    a, は高次脳が受け取るが、
     b, は、生命に直結する脳幹(周辺を含む原始的な古い脳)が受け取り、深い感覚、感性を生じる。 b が無いと、深い感動は得られない。
    (★ b、を発見し、新たに取り入れてたのが、新しい音知覚モデルです。)
     
    上記の、音の知覚モデル仮説(聴覚より深く言いたいので知覚を使った)仮説を基に作ったのが、「新・電気音響論」です。装置を作りつつ実証しています。

  1. 人の感動は形容詞で表現されると考え、全形容詞(約1300)から、KJ法、多変量解析で、2主軸に集約された官能評価語:“胸に沁み込む音”、“漂う空気感”を得ました。
    これが、上記b の感覚であり、官能評価語でです。
    (付録1) 官能評価は客観性があり、また音の良し悪しを尺度化してとらえることができるので、これ音質測定に用いて、上記(2)の条件を発見しました。この評価で作った装置の性能は包含的だから、「胸に沁み込む」、「漂う空気感」が分からない人の好みの音楽も完璧に再現します。具体的には、“胸に沁み込む”は、聴いた瞬間に、例えば音が「胸に3cm入った」、「10cm入った」と客観量表現できます。これはIQとは関係ない、本能そのものの反応;脳と、自律神経の反応:その瞬間の、自分の意識とは関係なしに、瞬時に身体筋肉が反応する本能的な官能(鳥肌が立つも含まれる)であり、主観評価ではなく、人を固定すれば安定である。これを、研究を進めるための音質測定器としたのです。
  2. 発見された“要因・特性”は、音楽家が“子音”という、瞬時過渡情報の忠実な再現と、“空気の動き、風圧”(周波数領域での表現をすれば0.01Hzに及ぶ超低周波も含む波形)の忠実な再現であり両者は一体となって、「信号では波形、音になった時は波面の精細な再生が要求される」ですその実現には、ハードウエアー特性として“ハイQ”の条件が不可欠です。
  3. 実現装置が、Extra HI System M です。(付録2)(付録3)

 まとめると、新しい、音知覚モデルの。b:心理的に、胸に沁み込む音、漂う空気感、深々としたスケール感を再現し、深い感動をもたらすことが主目的で、その実現の科学工学的には、“L,R 信号の正確な時間再現による波面の生成で、奥行き感のある音場を生成し、「生音の雰囲気の再現」”、“平面波のように感じる音”、“暗騒音の音場生成”、“ハイQ”を特長とし、物理的には、L,R信号波形を、振幅、時間共に、正確に、、直接波として放射すること、、直接波とその背面からの反射の干渉波、との合成によって原音源の波面に近づけています。

1、 新・電気音響の実際;録音・再生

  1. ステージから客席に走ってくる音を、客席の一番良い位置(音場音像が良い)で録音する。ワンポイントステレオで、L,R信号を忠実に録音する。
  2. その音をリスニング場で忠実に再生する。それは、時間を正確に再現していることと、平面波近似故、波面が形を乱さないでどこまでも減衰しないで行くから“良く通る音”となり、リスニングルームの広い聴取場所で、多くの人がその再生音を楽しめます。(波面は減衰しないで、どこまでも通る音となる。地球の裏側でおきた平面波が減衰しないで日本まで来る津波の原理と同様です)
    sindenki1生成される波面のイメージ図。
    左図は従来オーディオ音場、右図は新・電気音響は平面波近似の音場生成)

2、従来ステレオの設置法:L,Rスピーカ、聴者を正三角形に設置した場合と、新・電気音響設置法:L,R スピーカー、背面を使って波面がそろうように配置した場合の波面の違い。

sindenki21シミュレーション図;
左図:干渉波面、右図:平面波面
説明;左図の従来ステレオはL,Rからの球面波が干渉している。右図の新・電気音響は平面波近似の波面が奇麗な再生

参考説明;

球面波(360度に広がり、放射された音圧は、距離の2乗で減衰していく)
平面波(この場合は、2つの発音体から平面波を合成させるように調整すると、広がらず、距離に無関係に波形が崩れず、減衰しないで進行する波ができる。チリ津波が日本まで到達するのと同)
球面波(360度に広がり、放射された音圧は、距離rの2乗で減衰していく)
 sindenki41

3新・電気音響の定義

仮説1:音の波面の忠実な再生

 人間は,ある時刻の音とそれよりも過去に発せられた音との時間的係わり合いを知覚している.すなわち,信号の振幅方向と時間方向の結合でもたらされる波面音情報を知覚している.特に時間方向の歪に対する人間の知覚の鋭さは,振幅方向の歪知覚の鋭さに匹敵すします.その波面が再現されると、ホログラフではないがホログラフのように感じる、”胸に沁み込む、漂うような空気感”の、音像、音場が再現されます。この実現には,音響再生装置やそこに用いられている素子の時間方向の揺れさえをも超高精度に(nsec)抑え込むことが必要です。これは鼓膜感覚のみならず身体感覚と考えられます。平面波再生が基本です。

仮説2:エネルギーの放出

 “漂う空気感”,“胸にしみ込む”などの高度な感性に訴える音の再生のためには,ディジタルでもアナログでも同様ですが,仮説1の時間・振幅精度の波面再生をすること、且つ,スピーカーから音響空間への音放射を、整合無反射放出が必要です(高級音技術者が言う、”音の吐きが良い”と言われる状況)。そのためには、電源,回路,信号経路のどこでも信号の流れが反射なく行われる事が重要です。 そのためにはアンプのみならず、電気素子・ケーブルなど,使用素材の材質,電気素子・ケーブルの支持の仕方や,筐体や回路基板に起こる定在波・振動の除去の慎重な配慮が必要です。

仮説3:音楽演奏,音のニュアンスの再現

 スピーカーが敏感に入力信号に反応することが最も重要です。 そのためには仮説1にも関係して、スピーカーを主として、ハイQな性能が必要です。

付録1; 官能評価語とその尺度化による客観測定
 オーディオ界の決定的問題:「いわゆる音質メーターがないので、”良い音”の客観的基準がなく、良い音の製品開発は難しい」です。
新・電気音響は、鼓膜のみで音を受け取るのではなくむしろ身体で受け取る情報が多いとする、新しい音知覚モデル(仮説)を提示しました。その新しい身体感覚を客観尺度化するために、評価語を徹底的に研究し、そこから得られた官能評価語“胸にしみ込む”、“漂う空気感”を、客観評価に使って、昨年来、この滞った問題が解決しようとしました。
音質に関する1300余りの全形容詞を、系統的に研究し、代表的6評価語:「凄み、胸にしみこむ、空気感、緊張感、のり、音の重心の低さ」にまとめ、これらの評価語による評価の総合で評価してきました。(JAIST 石川智治君, 2006の学位論文)

最近、この6つのキイ評価語を、更に、2つのキイ評価語:”漂うような空気感”、”胸にしみこむ音”に、凝縮されることを明らかにでき、研究が進め、成果が上がり始めました。
再生された音を、単に、「良い音か?」と問うと、多くの素人は、高品位な演奏は厳しい音であることが多いので、その演奏録音の音を忠実に再生する良い装置の音より、ゆるい音の再生をする性能の悪い装置の音を「聴きやすい」と、誤って高く評価することが多く経験されています。
誤りの例として、例えば、開発した良い装置を、営業は「製品が売れる」ことが最大の目的故、1000人とかの、一般的な短大女子学生の評価をしますが、その場合の、あまい音の方が良いと評価された結果を鵜呑みにして、発売を中止したり、最終的に初期の設計思想の違う装置に変えて発売し、本来の目的を失った失敗例も多いと聞いています。
このような失敗をしないために、何年も試行錯誤的研究をしてきて、到達した客観官能評価語が、“胸にしみこむ”、“漂う空気感”です。これらに注目すると、正しい判断ができ、「音は好みの問題」として、音装置の忠実度の向上の進歩が止まってしまっていた現状を、改善できるようになりました。

“胸にしみ込む”感覚がわかる人を測定器として使って、開発を進めます。これは被験者の好みの主観評価とは違う、官能試験です。2つ目は、“漂う空気感”です。これは音を画像に例えて表現すると、富士山の姿の1合目から下の裾野平野につながっている雰囲気です。“胸にしみ込む”上に、“漂う空気感”が必要です。リソースに入っている“胸にしみ込む”、“漂う空気感”音が再生できるように作った装置は、包含的に、従来装置以上に満足させる装置であることは、実験的に確かめられています。オタク専用の装置ではなく、どの音楽に対しても高品質な再生装置です。

まとめ;音質に関する全評価語を系統的に研究し、多変量解析して得た、深い感性に関係するキィ評価語がある。それは、「凄み、胸にしみこむ、空気感、緊張感、のり、音の重心の低さ」である。
音評価形容詞空間の主成分であるといえる。
6つのキィ評価と、本論文で対象とした、2つのキィ評価語:2“漂うような空気感”、“胸にしみこむ”との関係を考察すると、
1.“漂うような空気感”は、空気感、そのものである。
2.“胸にしみこむ”は、凄み、胸にしみこむ、緊張感、に近い。
3.キィ評価語の残りの、のり、音の重心の低さ は、両者に関係すると考えられる。
以上により、2つのキィ評価語によって、高度な音質の評価に対して、重要な音質要因を見逃していない(抜けはない)と考える。 以上説明のように、この2語は、系統的に得られた評価語であり、思いつきで探した程度の評価語ではありません。
★上記評価語による評価は、自律神経の反応として捉えられることが明らかになりつつあります。自律神経の反応は測定でき、客観量ですので、今後、自然科学の問題として、研究が進められます。 

付録2; 新・電気音響理論に基づいて作られた装置の再生音に対する評;
1、通常オーディオのセッティングでは、例えば中央で歌っている歌手の音像の口の大きさが大きく、聴者が頭を左右に振ると、音像ががらがら変わるが、宮原システムの場合、歌手の口の音像は口蓋が見えるほど小さく、また聴者が頭を左右に振っても、自然に左右に動くだけで、非常に良い。いくら聴いても疲れない。
2、同様の意味で、聴取空間を歩き回ってみて、通常オーディオのセッティングでは、音場、音像がガラガラ変わるが、宮原システムの場合、不自然さを感じない。疲れない。
3、モノラール音源を再現した場合、通常オーディオのセッティングでは音像が点になるが、宮原システムの場合 音像はスピーカーの外側に迄広がり、ステレオのように感じ、違和感がなく、奥行き感もあって、ステレオのように感じる。
注意して聴くと、当然のことながら楽器の位置はわからないが。平面波的に聴こえる。
考察;(超)低周波は後壁反射音が、低音スピーカーが平面に並んだように考えられるから、不完全でも生音近似の波面が生成されていると考えられる。だから、シューボックス型ホールの客席で聴くような音(平面波に近いか?)が生成されていると思う。
★宮原註;ほとんどの人が、「いくら聴いても疲れない」と評する。新・電気音響では、音像が物理的にできていて、脳は使わずそのまま聴くだけなので疲れないと思う。従来オーディオは、音像の物理情報が足りない(位相情報が無い)ので、脳が記憶している知識を基に音像を認知するので脳が疲れると思う。

付録3 新聞記事

なりは小さいけど、音質の深みは究極の
Extra HI System M ver.1

sindenki5

1994,4 (平成6年)金沢の菓子博の時、三笠宮寛人殿下・信子妃殿下がJAISTにお立ち寄りいただいた折、AV室でお聴きいただき、お褒めのお言葉をいただいたExtra HI System M ver.1 システムです。(文教ニュース平成6年5月9日に記事が載っています)

(以上です2013、12・8)。